June 11, 2025
フィンランドといえば、白夜、ラップランド、サウナ、オーロラなど、美しい自然や文化が思い浮かびますが、そこに新たに加えるべき名前が一つ。それが、声の才能に満ちたルディ・ロックです。ヘルシンキを拠点に世界中で活躍するルディは、ジャンルを越えた自由なスタイルで、声を使ったパフォーマンスの可能性を広げるボイスアーティストです。彼のYouTube動画は何百万回も再生され、ライブパフォーマンスも圧巻。そんな彼とSynが出会ったのは、オンラインでの巡り合わせでした。
2019年、Synはウォルト・ディズニーのイマジニアリングチーム(テーマパークやアトラクションの企画・設計・技術開発を担うチーム)から、オーストラリア・メルボルンのモナッシュ小児病院での特別なプロジェクトに参加を依頼されました。このプロジェクトでは、病院のロビーに常設される「イマジネーション・ツリー」というインスタレーションのために、サバンナの音を再現した没入型のサウンドスケープを制作。子供たちが両親や介護者と1日の最後にお別れをしなくてはならない場所でもあるこの空間を音と光で満たすことにより安心感をもたらしました。プロジェクトに取り組む中で、野生動物の鳴き声というものは迫力こそあるものの、子どもたちが怖がってしまうこともあるということに気づきました。そこで必要とされたのが、ルディの声の魔法です。SynのCEOでクリエイティブディレクターであるニック・ウッドは、ネット上で「人の声で、動物の鳴き声を再現できるアーティスト」を検索し、ルディにたどり着いたのです。彼の持つ専門性は、このプロジェクトにぴったりでした。ニックと萩原祐二が手掛けたオリジナル音楽とルディの動物ボイスがコラボしたことで、ディズニーの「イマジネーション・ツリー」は心温まる魅力的な空間となりました。
この出会いがきっかけとなり、2020年にはイタリアの自動車ブランド「フィアット(Fiat)」が初めて手掛けた電気自動車「500e」のサウンドデザインで、Synとルディはクリエイティブ・パートナーシップを組むことに。Synは、ミラノの音楽エージェンシー・Red Rose Productionsと共に、この車両のAVAS(車両接近通報装置)サウンドを制作するパートナーとして参加しました。20km/h以下の低速走行中に歩行者へ車の接近を知らせるための装置・AVASのサウンドの制作において「ユニークで、イタリアらしさにあふれ、キャラクター性のある音」という要望がありました。今回もまた、ニックがヒントにしたのは「人の声」でした。子供がカーペットの上でおもちゃの車を走らせながら発する「ブーン」という音を、人の声で再現するという(ユニークな)アイデアです。そこでルディに課されたのは、ユニークで自然なサウンドでありながら、安全性に関わる技術基準も満たすという挑戦。彼はSynの東京チームと連携しながら、イタリア文化や伝統的な表現を深く研究し、多様なサウンドの可能性を追求しながら演奏を行いました。さらに、イタリアの作曲家・Nino Rotaが音楽を担当した映画「フェリーニのアマルコルド(Amarcord)」の優雅なクラシック音楽の余韻をそこに重ねることで、心に深く響く印象的なサウンドが完成しました。サバンナを思わせるサウンドから、実用的な電気自動車の走行音まで――このコラボレーションは、「声」がブランド表現の新たな可能性を切り拓くことを証明しました。
人の声は、感情に訴え、親しみを生む非常にパワフルな表現手段です。アニメーションの世界では「ザ・シンプソンズ」や「ルーニー・テューンズ」などの世界中で愛される作品を通じて、その力が長年にわたり実証されてきました。この20世紀のカートゥーン文化からインスピレーションを受けたルディは、2022年のAmazon JapanホリデーキャンペーンでもSynと再びコラボレーション。アマゾンボックスをモチーフにしたキャラクターたちが登場するこのアニメーションでは、Syn東京の芳賀一之がプロデュースを担当したオリジナル音楽と共に、ルディはキュートで個性的なサウンドを提供しました。非言語のサウンドがキャラクターに命を吹き込み、親しみやすく、楽しい印象を与えたのです。
最近では、フィリピンの「マウンテンデュー(Mountain Dew)」のプロジェクトでもSynとルディが再びタッグを組みました。ゲームとの親和性が高いこの炭酸飲料ブランドは、ゲームと連動した新しいコンテンツを求めて、マニラのエージェンシー・BBDO Guerreroと共に「Dew!(デュー!)」というたった一つの単語で、ゲーム音を再現するという大胆なアイデアを発案。ルディによるレーシングゲームのエンジン音、FPS(ファーストパーソン・シューティング)の銃声、さらにはゾンビのうなり声までを「Dew」の一言で演じ分けるルディのパフォーマンスは圧巻でした。声優のTuukka HaapaniemiとAlina Tomnikovとの共演も功を奏し、このラジオキャンペーンはCannes Lions ブロンズ賞、LIAゴールド賞、ADFESTブロンズ賞を受賞。遊び心あふれるコラボが、世界的に高く評価されました。